僕と大河のショートショート③

大河メジャーで遊んでる写真


動物好きな人ってさ、
彼らと会話するよね。

『そうなのー?』
とか
『そうなんですかー?』
とか
『そうだねー!』
とか。

いや、僕も当然のように
大河(猫)と会話しますよ。

でも母はもっと大河と会話します。

通訳かなってくらい話してます。
副音声かなってくらいの量を話してます。

さらに調子が良いと
大河が何も鳴いてないのに
『そうなのー』
とか突然同意をします。

僕が実家にいた頃はこれに
結構ビビってました。

何も聞こえなかったけど
母さん何が聞こえたの?

もしかして大河は直接脳内に
話しかけてるの?

テレパス?

大河はエスパーか何かなの?

そんな感じで、今でこそ大河と仲良しの
母ですが最初は子猫を飼うのに
猛反対でした。

『名前を呼ぶと情が移る!』
とか言って、頑なに子猫達の事を
『あの子』とか『あの猫』
って呼んでたくらい。

けど大河はそんな頑固な母をも
虜にしてしまったんです。

本当すげぇ。

今回はそんな大河のエスパー並みの
魅力についてお話するよー!

僕と大河のショートショート③



大河とシノに出会い、
雪混じりの雨の中を無事に帰宅。

さて、ここからが問題。
つーか大問題。

この子達を家族として迎える為に
我が家のボスでもある母を
説得しなければならない。

よし。
会話のシミュレーションしておこう。

以下シミュレーション
『母さん、猫って可愛くない?』
『可愛いわねー、猫!』
『だよね!実は子猫拾ったんだ!』
『あら可愛い!家族にしましょう、猫!』
以上シミュレーション

完璧過ぎる綿密なシナリオだ。

僕に不可能な交渉なんてない。

夜遅いのでソーっと家に入り、
母の部屋に行き、ドア越しに話しかけた。

『母さん』


『寝てる?
『寝てる』

よし起きてる。

『あのさぁ、猫って可愛いくない?
『絶対だめ』

心を読むのやめて。

『いや僕は母さんと
猫がどれだけ可愛いかについて
語り合いたいだけだよ。
ダメとか意味わからないよ』
『猫は可愛いけど絶対に飼っちゃだめ』




ニャーン

不甲斐ない僕を見兼ねた子猫が
まさかの援護射撃!

この声は大河だ!!

援護射撃と言うよりは仲間に背後から
撃たれてる感じだけどありがとうねでも
今はちょっと静かにしててね!

『アンタ何拾ってきてんの!?』
ドアの向こうから少し怒り気味の声が。

『あ?えーと、亀?』
咄嗟にウソをついてしまいました。

当時、僕は焦るとわかりやすいウソを
つくクセがあって。

本当しょーもないクセだよね。

まぁ当然のように即バレしてしまい、
『絶対に猫でしょうが!』
と母は更に怒った訳です。

1匹だけでしょうね!?』
『あーうん』
またウソ。

ニャニャーン

最悪のタイミングでシノ君の登場!

そして大河と2匹で
ニャーニャー鳴き始めてさ。

2匹いるじゃない!』
ついに母は部屋から出てきました。

漫画なら母の後ろに
【ゴゴゴゴゴゴッ】
って文字が描かれてるくらい怒ってた。

つーか文字が見えてた。

あと背後に阿修羅像もうっすら見えた。

この人スタンド使いなのかな?

超怖ぇ。

『あれ?拾った時は1匹だったけど
もう1匹は勝手についてきたのかなぁ?』
って僕の役者技術を総動員して
偶然を演じてみたんだけど一切通じない。

さすが母。

そして僕も役者じゃなかった。

うっかり。

そんでみっちり説教タイムね。

あ、二十歳超えて親に怒られると
なかなかキツイという事をこの時に
大発見しましたよ。

しかも理由が野良猫拾ったなんて。

小学生みたい。

だけどもそこからの
粘り強い交渉(半泣き)の結果、
ウチで子猫達を飼うことは出来ないが
里親が見つかるまで家に置いても良い。
そのかわり僕の部屋から子猫達を
一切出さず、面倒も僕が見る。

といった【一時預かり】という約束で
承諾を得ました。

しかしこれでも母は不満だったらしく、
『ありがとう。あ、この子達の名前はね
『名前なんかつけたら情が移るから
絶対にやめなさい』
と名前すら聞いてくれません。

今回の交渉は難航した。
この落とし所が限界だったんだ。

そう自分に言い聞かせ、
翌日から子猫達の里親探しが
始まったのです。


片っ端から友人にメールしまくった結果、
シノ君は数日で引き取り手が
見つかりました。

シノ君を載せた車を見送りながら
母はポツリと
『後はこの子だけね』
とつぶやきました。

『この子の名前は大河、ね。母さん』
と言っても母は返事をしません。

相変わらず猫を名前で呼ぶ気も、
飼う気もないみたい。

母の意思は固い。



それから1週間後。

仕事が遅くなったある日、
夜遅いので相変わらずソーっと帰宅。

すると僕の部屋から母の話し声が。

どうやら大河と遊んでるらしい。

ドアの隙間から覗くと母が
『お名前は大河君っていうのー?
カッコいいねー。
万里は帰り遅いですねー。
それまで私とあそびましょうねー!』
と目をキラキラさせて遊んでるの。

そんで大河が鳴く度に
『そうなのー?』
つってた。

正確には
『ちょうなのー?』
って。

完璧に赤ちゃん言葉。

ニヤニヤしながら見ていたら母が気づき
『まぁ、こんな感じで』
といって気まずそうに自室へ
戻っていきました。

どんな感じなんだ?
一体なんのお手本を僕に見せたんだ?

でもその時、母は大河の事を
確かに名前で呼んでいたんだ。


翌日、母は
『この子を去勢手術済みにした方が
里親見つかりやすいんじゃないか』
と提案してきました。

昨日の一件で大河を家族として
認めたと思ったけど、どうやらまだ
【一時預かり】
の約束は生きてるみたい。

覚悟を決めて僕と母、そして大河で
近所の動物病院に行きました。

病院で先生に
『どんな性格の子ですか?』
と質問された時に
『可愛い子です』
と即答。

母が。

やめてよ先生困惑してんじゃん本当の事だけどあぁ大河可愛い。

と心の中で大声で叫びました。

そして先生から
『この子、メスですよ』
と衝撃の事実を告げられた時も
『アラー!知ってました』
と即答。

母が。

なんだよ知ってましたって今驚いてたじゃん
アラー!って言ってたじゃん先生絶対にこの家族おかしいって思ってるよあぁ大河は女の子だったのかごめんね可愛い。

と心の中で大声で反論しました。

手術も無事終わり帰宅すると、
麻酔でグッタリした大河を
母は優しく撫でながら
『この子を置いとくのは
里親が見つかるまでだからね』
『早く貰い手を見つけて来てね』
『大河、早く元気になると良いね』
と泣きそうな顔をしながら
一人で話してるの。

そんな顔するなら素直に
家族にしちゃえば良いのに。

大河の事ももう名前で呼んでるし。

母はほんと頑固だ。


その数日後、部屋で元気になった大河と
猫じゃらしで遊んでいたら
以前シノ君を引き取ってくれた
友達から電話が。

『どもー万里くんー!』
『おー!シノ君元気ですかー?』

『元気元気ー!ところでさ、私の友達も
子猫欲しがってて、大河ちゃんだっけ?
まだ里親募集してる?』
『あ

すごく胸が苦しくなった。
どうしよう。

すみません!大河の里親
決まっちゃいましたー!』
ウソついてしまった。

『そっかー、ざんねーん!
友達に伝えとくねー!』
『はい!お友達さんに
よろしくお伝えください!』

電話を切った後、
背後に気配を感じて振り返ったら
ドアの隙間から母が見てんの。

もうね、市原悦子かと思った。
パーマのかかり具合とか。
大沢家政婦紹介所から来たのって?

それより電話を聞かれた。
ウソをついたのもバレた。
絶対に怒られる。

母は部屋に入ってきて
『大河まだ里親見つからないの?
困ったねぇ』
と大河を抱き上げながら
話しかけてんだけどさ、
顔が全然困ってないの。

むしろ嬉しそうな顔してんの。

あぁ。

僕のウソもわかりやすいけど、
母のウソもわかりやすいなぁ。

そんで大河がニャーと鳴いて。

やっぱり母は
『そうなのー?』
と答えて。

何がそうなのだろうか?

でもこの時は、僕にも大河が
なんて言ったか解った気がしました。

きっと大河は
『素直じゃないんだから』
と言ったんだと思う。

母にはなんて聞こえたか解らないけど。

その日を境に母は堂々と大河の名前を呼び、
大河は堂々とリビングや他の部屋を歩き回る(荒らし回る)のでした。

あんな頑固な母すら虜にする
大河の魅力ってスゴいよね。

母はそれからしばらく、
というか14年経った今でもたまに
大河が日向ぼっこなんかしてると
『アンタは里親募集中なんだからね。
居候なんだからね』
と話しかけています。

大河もそのセリフに慣れたみたいでさ、
もうニャーなんて鳴かないの。

振り向きもせず背中を向けたまま
短い尻尾を2回ほどピピッと
小さく振る程度で返事を済ましてます。

なに熟年夫婦なのかあなた達は。

そのリアクションを見て母は相変わらず
『大河ちゃんそうなのー?』
と答えています。

嬉しそうに目を細めながら。


大河に限らず、動物って本当に
超能力が使えるエスパーなのかもね。


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