僕と大河のショートショート

『猫は芸を覚えない』
っていうけどさ、
大河(実家で飼ってる猫)は
15歳にして芸を覚えました。

それは【タヌキ寝入り】です!

超遅咲き。
超大器晩成。
クオリティは低いけど。

【猫がタヌキ寝入りした日】

大河は腎臓が弱ってきたので
点滴をするために週に一度、
仕事の合間に数時間だけ

実家に寄っているんだけどね。

最近は大河、僕の顔を見ると
タヌキ寝入りするようになりました。

猫なのにタヌキってオマエ。
ドラえもんかよ。

僕が実家の玄関開けて
『大河ー。調子どうー?』
って声かけると、
どんな状況でも大河は寝たふりをします。

食事の途中だろうが
大好きなオヤツの最中だろうが、
僕を見るとそそくさと
お気に入りの椅子の上で丸くなり
毛布に頭を突っ込んで
寝てるアピールをするんです。

『めっちゃカワイイなぁコイツー』
って、そーっと毛布を上げるとさ、
大河、思いっ切り目を開いてんのね。
そんですげぇ僕のこと睨んでんの。

『毛布あげんなや』
って目で訴えてる。

コイツ全然寝てねぇ。

しかも、たまにオヤツを口の周りに
付けたりしてんのね。

さっきまで貪るようにちゃおちゅーる
食べてたの知ってるからね。

タヌキ寝入りのクオリティ低すぎ。

そして起こそうとするとすごい唸って
威嚇するくせに、
オヤツの袋をガサガサ音をたてると
急に起きだして
『あーよく寝た。
あら、オヤツの時間かしら。
ちょうど起きたし頂こうかしら』
的な演技までするのよ。

いやオマエさっきまで食べてたじゃん口の周りにまだ付いてるよちゃおちゅーる。

そんでご機嫌とりにオヤツあげて、
いざ点滴ってなるとまた寝たフリしてんの。

いやこのタイミングでタヌキ寝入りは
さすがに無理だから。
タヌキに対する冒涜だから。

毛布が近くにない時は
前足で目を隠すようにして寝たフリ。

でもやっぱりめっちゃカワイイなぁって
前足をそーっと上げると
相変わらず目がバッチリ開いてて
僕を睨んでるの。

『寝てるの見てわからないの?バカなの?』
って目で訴えてる。

めっちゃコワイ。

だけど点滴しなきゃねってことで
大河を抱っこして、
ハリを指して、
輸液して、
大河が暴れ始めたあたりでハリ抜いて、
アルコール綿で患部を拭いておしまい。

点滴直後はすごく機嫌悪くなるんだよ大河。
いや、点滴直前もすごい機嫌悪いんだけど。

だから点滴が終わったら
やけ食いのようにエサを食べます。
僕たちは『キレ食い』と呼んでます。

このタイミングなら
エサに薬が入ってようがおかまいなし。

んで、エサを食べ終わったら今度はふて寝。

【寝る】のバリエーションが
豊富でなにより。

僕に背中を向けて寝る大河を見て
『元気になって本当良かった』
と、自然と言葉が出ました。

あれは去年の夏。

大河を初めて病院に連れて行った時は
本当にぐったりしてて。

エサを何日間も食べない状態で痩せ細り、
家族の誰もが最期が近いと感じてました。

なにより大河本人が自分の最期を
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番強く感じていたかもしれない。

動物病院に連れて行き、
血液検査してから注射を打ってもらって。

先生に食欲がないことを相談したら
検査結果の数値を見ながら
『食べたがるものをあげてください。
おいしいもの食べさせてください』
と答えてくれてさ。

それを聞いたとき察したんだ。

もう健康を考えた食事は意味がないんだと。
すでにそういう段階まで来てるんだと。

『残された時間を悔いのないように
過ごしてください』
と先生は遠回しに言ってた。

どれくらい残ってるのかわからない
『残された時間』が、
カウントダウンのように僕を焦らせたんだ。

それから大河に色んなモノを
食べさせてあげた。

高級フードも嗜好性の高いオヤツも、
本当はいけないんだけど
人間が食べるような焼き魚やお刺身も。

なんでも良いから食べて欲しかった。
でも、何をあげても口にしてくれなかった。

『大河、この世は美味しいモノに溢れてるんだよ』
『大河が明日も元気なら、もっと美味しいモノが食べられるよ』
『大河、もう少しこの世界でゆっくりしてきな』
『だから大河、お願いだから何か食べて』
『大河、どうかお願い』
『どうかお願いします、神さま』

最初は大河に話しかけていたんだけど、
いつも最後は神さまにお願いしてた。

他人から見たら大河は
世界中にいる猫の中の一匹だけど、
僕から見たら大河は
世界中に一匹だけの猫なんだ。

それは他の小さな家族を持つ飼い主さん達も
例外なく同じだと思う。

それからしばらく通院を繰り返して
大河は徐々に回復しました。

病院の先生も
『あ、体重が重くなってきた』
と言ってくれてさ。

僕にとってはそれは奇跡で。
神さまってやっぱりいるんだよな、
とか思ってしまうんだ。

なんてシミジミ思い出してても
本人は背中向けて寝てるんだけどね。

すっかり歳をとって小さくなった
大河の背中。

撫でると背骨がゴツゴツしてさ。
自慢の毛並みもちょっとゴワついてて。
でもそれが愛しくてさ。

猫としては高齢なので
『残された時間』のカウントダウンが
なくなったわけではないんだ。
だけどあの夏のように焦りはしなくなったよ。


そういえば猫好きの会員さんがね、
『撫でれる存在がいるって素敵なことよ』
って僕に言ってくれてさ。

その時は会話の流れでサラっと
言ってたんだけど、本当にその通りだと思う。
本当に。

寝ている大河の背中に向かって
『ありがとうね』
って声をかけると小さなシッポを
小さく振って返事をするんだ。

ほら。
やっぱりタヌキ寝入り。

まだまだクオリティ低いけど。